2021.7.16 ritokei|「おいしい!たのしい!島の魚食図鑑」を読む島好きの会

マルチワーカーについて

離島中山間地域の現状

 離島や田舎での仕事と聞いて、何を想像するだろうか。おそらくだが、農業や漁業などの第一次産業、または自然環境などを活かした観光業をイメージするのではないだろうか。そういった仕事をイメージする一方で、離島や田舎に対しては「衰退」というイメージも一緒について回るせいで、そういった仕事すら今後なくなっていくものであるように思われている。このような現状から、離島や田舎に住む若者はより安定していて将来性のある仕事を求めて、都市部へ流出する。その結果、離島や田舎で、ますます少子高齢化が進行し、後継者不足が起こることで、産業はどんどん衰退していく。しかも、産業の衰退が若年層をより都市部へ流出させ、それが離島中山間地域には仕事がない、という考え方をより植えつけてしまうという悪循環が起こってしまう。

 しかしながらその一方で、例えば、島根県隠岐諸島に位置する離島、海士町の現状としては、介護や保育、岩がきやなまこの加工、観光案内や民宿、漁業・農業の後継者育成等、人手を欲している現場や実はかなり多く存在する。しかもまたその一方で、都市部では味わえない豊かさ、暮らしへの憧れや新型コロナウイルスの流行もあり、リモートワークやワーケーションがますます進み、都市部に固執することなく、地方への移住に対しての意識の高まりが見られている。すなわち、人手を欲している離島中山間地域と、またそこでの暮らしに憧れを持つ人がいて、一見需要と供給が見合っていそうだが、実際は「過疎地、離島、田舎には仕事がない」という固定観念のもと、離島中山間地域においては、若年層が都市部へ流出し、それとともに少子高齢化と後継者不足という問題が発生してしまっているのである。そこで、この問題点を解決するための一案として、島根県隠岐諸島に位置する離島、海士(あま)町が提唱する新しい働き方とライフスタイルについて紹介していきたい。

人は何を基準に仕事を選ぶか

 新しい働き方の話しに入る前に、改めて、なぜ離島中山間地域の仕事は選ばれないのだろうか。例えばここ海士町においては、先に述べたような、人手を欲している職業である、看護師や保育士、介護士に関しては、専門職であることから資格の有無が採用の条件になってしまう。岩がきやなまこは、時期によって取れる時期と取れない時期が明確に分かれており、通年採用が難しく、ホテルやガイドなどの観光職や特産品の直売所やレストランはそもそも応募が少ない。また、民宿や漁業・農業の担い手育成に関しては、自営という観点から未経験者の、参入へのハードルが高いという難点がある。つまり、「業種」という軸でもって離島中山間地域で働くことは選びにくいのが実情である。そこで、「業種」という軸以外で、離島中山間地域で働くことが選ばれるために、新しい働き方とそれによってもたらされるライフスタイルを確立、提案していく必要がある。

海士町でできる新しい働き方とライフスタイル

 新しい働き方を確立していくためには、その地域の人材需要を的確に把握し、配置していく必要がある。そこで重要なのが、業種の垣根を超えて、ポリバレントに働くことができる、「マルチワーカー」の存在である。例えばここ海士町においては、季節や日ごとに変動する人材需要を的確に把握しながら、通年での人材の絶対数の確保も成し遂げるためには、複数の業種で、需要を見ながら柔軟に働けることが何よりも大事になる。この「マルチワーカー」というアプローチによって、課題であった海士町内の人材需要と絶対数のマネジメントが、大幅に改善される。そして、この「マルチワーカー」の導入におけるマンパワーの補充によって、海士町内のサービスの質の向上や人手不足から放棄されていたサービスの再興につながり、また、多様な業種で働ける人材が増えることで、新たなサービスや産業の創出の可能性も出てくる。例えば、春に需要のある岩がきの養殖、加工、夏や秋に需要のある、ホテルや民宿での業務、冬に需要のあるなまこの加工や離島キッチンの営業等を季節ごとにかつ通年で行うことができる人材により、一つ一つの事業所で少しの余裕が生まれ、その余裕が海士町内全体のサービスの質の向上につながる。 加えて、業種に縛られない働き方が働く側に与えるメリットも非常に大きい。多種多様な業務に関わり、未体験の刺激を受けることが、今までの自分の価値観を揺さぶり、自分の中の視野を広げ、自分が今後どのように生きていきたいのかを見つめ直すきっかけになる。そういった環境で出会う人は総じて、今まで自分が関わってこなかったような生き方、考え方をもっている人であり、そういった人との関わりの中で、自分が一番幸せを感じられるような生き方を改めて考え直すことができる。海士町での新しい働き方、ライフスタイルがあなたの人生に大きな発見をもたらすのは間違いない。

産業のイノベーション

 不足しがちな人材需要の補完とそれによって可能となる、放棄サービスの再生と既存のサービスの磨き上げ、新サービスの創出と、都市部では得られない豊かさへの需要を満たすような新たな働き方、ライフスタイルとをうまくマッチングさせることで、人手を欲する海士町と地方への移住に対して高い意識を持つ人々、双方にとって非常に大きなメリットをもたらす「マルチワーカー」が生まれる。「マルチワーカー」がもたらす新しい働き方とライフスタイル、そこで得られる数多くの刺激は、若年層の流出を防ぐどころか、若年層のUIターンを促進し、後継者育成や新産業の創出を加速させる。今の働き方を少し変えるだけで、仕事はもちろん自分自身の生き方に対して新しい価値観を呼び起こさせる。需要と供給に見合った適材適所のマッチングによって、ライフスタイルと仕事の間で絶妙にバランスが取れるようになり、新たなサービスを創出する余白が生まれ、「産業のイノベーション」が起こる。また、その「産業イノベーション」が起こることで、若年層のUIターンをより促進し、それが離島中山間地域における新しいライフスタイルの確立にますます寄与するという、好循環が生まれる。海士町が先駆ける「マルチワーカー」になることで、海士町発の「産業のイノベーション」にあなたも加わってみませんか?


参考 マルチワーカーの記事まとめ海士町複業協同組合